王族の婚姻に振り回された聖女ですが、幸せを見つけました
 ちょうど客が途切れる時間帯だったのか、パン屋の店内はすぐに入れた。ほとんどのパンは売り切れていたが、残っていたパンをいくつか買い、袋に詰めてもらう。
 代金は財布を取り出す前に、リアンがさっと支払ってくれた。会計後、リアンにお金を払おうとしたが、有無を言わさない笑顔を向けられて、渋々お財布をしまった。
 聖女として各地で多くの人と接してきた経験上、こういうときは素直に引き下がるに限る。下心のある特別扱いはともかく、むやみやたらに人の好意は無下にしないほうが得策だ。
 ありがとう、とクレアがお礼を述べると、リアンは律儀にも「どういたしまして」と笑った。

「ねえ、リアン。ここで食べましょ?」
「そうだね。じゃあ、軽く腹ごしらえしようか」
「ええ!」

 店の外に出て、通行人の邪魔にならないよう店の壁際に移動する。
 下町には洒落たベンチも噴水広場もない。
 貴族街では考えられないが、下町では食べ歩きが当たり前だ。しかし、食べ歩きはよそ見をした人とぶつかったときに、せっかくの食べ物がこぼれたり落ちたりすることがある。
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