王族の婚姻に振り回された聖女ですが、幸せを見つけました
 普通に考えて、聖女が買い食いなど、もってのほかだ。けれども今のクレアは聖女ではない。庶民と同じ生活を送っていた頃のように振る舞っても、誰も咎める者はいない。
 せっかくの機会、楽しまなければ損だ。
 焼きたてではないので少し冷めていたが、パンの包みを開けると充分に良い香りが漂ってくる。そこそこよい小麦を使っているに違いない。まず一口かぶりつき、ふわふわ食感に驚く。二口三口食べて、中のとろりとしたカスタードクリームの濃厚な味にクレアは二度目の驚きを体験した。

「リアンリアン! このパン、全然硬くないわ。綿のようにふわふわだし、クリームもいつもと違う。特殊な卵を使っているのかしら? 濃厚なのにくどくなくて、甘すぎず、老若男女を虜にする味よ!」
「パンが白いなんて不思議だなと思ったけど、こっちも美味しいよ。中のクリームはチョコの味がするし、なかなかインパクトがあるね」
「へえ、リアンのパンも美味しそうねえ……」
「…………食べる?」

 遠慮がちに言われ、クレアは慌てて否定した。

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