王族の婚姻に振り回された聖女ですが、幸せを見つけました
「顔を見ればわかるよ」

 即座に答えを返され、クレアは両手で顔を覆った。

「うう、わたしもまだまだね。修行が足りないわ……」
「何の修行?」
「感情を表に出さない修行よ」
「え、その修行って必要? むしろ、感情は表に出さないと無表情になると思うんだけど」

 もっともな指摘だ。しかし、国中の期待を背負っている聖女ともなれば話は別だ。
 浄化の旅で広まった聖女の噂はどんどん美化されて今に至る。不運なことに建国の聖女と同じ色を持っていることで余計、国民が描く聖女像はさらに神聖化してしまった。
 聖女の理想とかけ離れた言動や振る舞いをすることは、民衆の期待を裏切ることと同義である。
 そんな残酷な真似をする勇気はクレアにはない。
 良心は痛むが、できるだけ彼らの理想の聖女になるべく、本音を押し隠して聖女の仮面を被っている。つまり、クレアは女神のような慈愛の微笑みを常に保たねばならない。どんなことがあっても取り乱さず、常に一定の距離感を持って感情を抑制する必要がある。
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