王族の婚姻に振り回された聖女ですが、幸せを見つけました
 それなのに、とんだ失態を犯してしまった。いくらお忍びで気が抜けているとはいえ、ここまで感情が筒抜けなのは己の鍛錬不足だろう。

「……皆が思い描く聖女は、こんな風に感情を出さないでしょう。感情のままに怒ったり笑ったり、そういうのは誰も望んでいないから。じゃないと失望されてしまうもの」

 深刻な表情で説明したのに、あろうことか、リアンは軽く受け流した。

「ふうん? でもさ。クレアは笑った顔が一番可愛いよ」
「……か……かっ、かわいく、なんてないから!!」
「可愛いよ。世界一の可愛さだと思う。なんて言えばいいのかな、クレアが笑うと皆がつられて笑顔になれるんだよね。一面の野の花が一斉に咲いたみたいな、そんな感じ。少なくとも俺はあの笑顔が好きだよ」

 常連客として来ていたときは、そんなこと一言も言っていなかったくせに、いきなり何を言うんだこの男。ひょっとして留学先で女の口説き方を習得してきてしまったのか。
 記憶が正しければ、彼は恋愛にはまったく興味がなかったはずだ。それどころか、容姿だけを見て近寄ってくる女性を忌避していた気がする。
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