王族の婚姻に振り回された聖女ですが、幸せを見つけました
「だってさ。聖女でいるときのクレアって、いつもと全然違うじゃん。本当に楽しいとき、クレアはあんな風に笑わない。感情を抑圧する生活を続けていたら倒れるのも当然だよ。適度に息抜きしなくちゃ」
「…………」

 自分が悪いという自覚はあるので弁明はせず、黙って頷く。
 無言で目を伏せていると、何かを悟ったのか、リアンがわざとらしく咳払いをした。

「あー……ごめん、これだと一方的に責めているね。クレアが悪いんじゃなくて、そういった振る舞いを求める周囲にも問題があると思うんだ」
「わたしのことを瞬時に見抜くなんて、リアンはすごいのね」
「何年、あの店に通い詰めたと思っているの。俺はずっとクレアに会いに行っていたんだから。普段のクレアを知っている人なら皆、気づくよ」
「そっか……」

 聖女に選ばれて環境が劇的に変わってからというもの、クレアにこうやって本音でぶつかってくれる者はいなくなってしまった。常に聖女でいる必要はないと言われているようで、ずしりと重かった心が軽くなる。
 こんなにも自分のことを理解してくれる人がいると知っただけで、救われたような心地だ。
 
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