王族の婚姻に振り回された聖女ですが、幸せを見つけました
「リアン、ありがとう。わたしを外に出してくれて……前みたいに接してくれて」
「……どうか忘れないで。この下町にはクレアを心配している人がたくさんいるってこと」
「皆がよそよそしく変わってしまった気がしたけど、変わってしまったのはわたしのほうだったのね。わたし、皆に謝らなくちゃいけないわ」
「謝る必要なんてないよ。クレアは、ただ笑ってくれるだけでいい。せめて下町にいるときはいつものクレアでいて? ここにいる皆は聖女じゃなくて、楽しそうに働くクレアの姿が好きだったんだから」

 さも当然のように言われて、クレアは瞬いた。
 ありのままの自分でいいと認められて、なんだか面映ゆい気持ちになる。

(リアンはすごいわ。わたしの欲しい言葉をくれる……彼が恋人だったら、どんなによかったかしら。ううん、叶わない未来を期待しても、あとで虚しくなるだけね)

 期待すればするほど、落胆は大きくなるものだ。
 聖女になってから何度も味わってきた苦い経験は思い出すのもつらい。それに、こうしてリアンと気軽に話せるのだって今日だけだ。
 わかっていたはずなのに、久しぶりの自由に感覚が麻痺していたのかもしれない。
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