王族の婚姻に振り回された聖女ですが、幸せを見つけました

「……クレア? 難しい顔をしてどうしたの」
「ううん、なんでもないわ。実家に顔を出したいのだけど、ついてきてくれる?」

 青灰色の瞳は心配そうにクレアを見つめた後、理由を追及するのを諦めたように息をついた。

「もちろん。それが君の望みなら」

 ◆◆◆

 下町と貴族街の境目にある、細い路地を抜けた先が実家だ。
 立地が悪すぎるため、格安で売られていた土地を祖先が買い付けたらしい。奥まった場所にあるせいで行き来は確かに不便だが、庭もついた一軒家はそこそこの広さがある。
 そして、三軒あるうちの一番右がクレアの育った家だ。

(よかった、ここは変わっていない。あのときのままだわ)

 記憶と同じ風景に安堵し、蔦が這った低い門を開ける。
 長年雨風にさらされて朽ちてきた木製のアーチを抜けると、開けた庭がクレアを出迎えた。大貴族の立派な庭園と比べたら見劣りするだろうが、たくさんの緑に囲まれた小さな庭園だ。厳しい冬を乗りこえた春先は次々に違う色とりどりの花が咲き乱れ、楽園のように目を楽しませてくれる。
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