王族の婚姻に振り回された聖女ですが、幸せを見つけました
 手入れに時間やお金がかかる美しい薔薇はないものの、季節ごとに咲く花が変わり、一年中楽しめるように工夫されている。その中にはクレアが寄せ植えをした植木鉢もあった。
 薄紫の房が揺れた花のそばには、すみれ色の花が身を寄せ合う。中央の花々を囲むように、黄緑と薄緑の特徴的な葉が茂っている。クレアの代わりに、妹たちが手入れしてくれているのだろう。
 感傷に浸っていると、ワンッ!と犬の鳴き声がした。

「…………」

 濃淡の違いはあれど、同じ金髪の少女の姿にクレアは目を細めた。一年前、路地裏で拾った白い子犬はすっかり大きくなり、少女の番犬のように横に並んでいる。
 少女は膝丈の花柄のワンピースを着たまま、呆然と立ち尽くしている。淑女らしく複雑に編み込みこんだ髪には白い生花が揺れている。

「ケイト。その髪、エマに結ってもらったの? とても似合っているわ」
「……お姉様?」
「ふふ。今日は特別なの。だから髪の色もちょっと違うんだけど……やっぱり変かしら?」

 この変装は門番の目を欺くのは都合がいいが、家族に赤の他人だと思われるのは悲しすぎる。
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