王族の婚姻に振り回された聖女ですが、幸せを見つけました
 クレアが聖女として旅立つ前、どれも当たり前だった日常だ。
 けれど、楽しい時間はあっという間に過ぎていき、とうとう日没まで残り一時間を切ってしまった。名残惜しいが、このまま居座り続けるわけにもいかない。
 今、クレアの居場所はここではないのだから。

「エマ、ケイト、ジャック……姉様はしばらく家を離れることになるけど、あなたたちが大事な家族であることは変わらないから。姉様がいなくなるからって、お父様を困らせてはだめよ?」
「はい……約束します。だから、お姉様もどうかお元気で」

 次女のエマが代表して気丈な笑みを見せる。
 その姉の後ろで五歳のジャックが不安そうにちらちらと見ていた。ほとんど家に帰ってこない姉を見て、何か思うところがあるのかもしれない。
 しかしながら、クレアにその不安を埋めるだけの時間は許されていない。
 父親に視線を移すと、深い懺悔をするように苦悶の表情を浮かべていた。

「クレアには今までたくさん苦労をかけてきたのに、この上、聖女のお役目だなんて……。重荷ばかりを背負わせてしまって、本当に申し訳ない」
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