王族の婚姻に振り回された聖女ですが、幸せを見つけました
「お父様。わたしは自分を不幸だなんて思ったことはありません。わたしには愛すべき家族がいます。一緒に暮らせなくなっても、わたしの帰る家はここです。お父様とお母様の娘として生まれてきてよかった。わたしを育ててくれて――愛してくれてありがとう」
「ああ、クレア……。私たちの愛しい娘よ、離れていても私たちは家族だ。困ったことがあったらいつでも頼っておいで」
「はい。お父様」

 頷くと、父親の大きな両腕が家族全員を包み込む。ぎゅうぎゅう詰めにされる中、家族の体温を間近に感じられて心が満たされていく。
 
「また来るわね。それまで、どうか元気でね」

 後ろ髪を引かれる思いで別れを済ませると、路地裏で待機してくれていたリアンが片手を挙げて出迎えてくれた。

「おかえり。……その様子だと、いい時間を過ごせたみたいだね」
「ええ。こんなに羽を伸ばせたのはいつぶりかしら。神殿長にもお礼を伝えないとね。――リアン、あなたもありがとう。わたしの知らないところで、いろいろ手を回してくれたのでしょう?」
「このぐらいお安い御用だよ。俺は世間の目を気にせずにクレアとこうして出歩きたかっただけだから」
< 31 / 96 >

この作品をシェア

pagetop