王族の婚姻に振り回された聖女ですが、幸せを見つけました
「ふふ、わたしもリアンと一緒に出かけられて嬉しいわ。さあ、帰りましょう」

 胸躍るお忍びの時間はここまでだ。神殿にはクレアの帰りを待つ者がたくさんいる。
 神殿に帰ったら、クレアはまた聖女に戻る。
 そして、明日から何事もなかったように聖女のお勤めに励むのだ。

(わたしは大丈夫。家族のためなら、望まぬ結婚だって笑顔で乗り切ってみせるわ)

 やる気に燃えるクレアの横で、リアンが何かを我慢している表情をしていることには気づかなかった。

 ◆◆◆

 立太子の儀は滞りなく終わったらしい。
 神殿長からその話を聞いたクレアは翌日、王宮の謁見の間に呼び出された。理由は考えるまでもない。長らく延期されていた、新たな婚約者との顔合わせの場が設けられたのだ。
 国王夫妻をはじめ、宰相や神殿長、国の重鎮が揃う中、クレアは憂鬱な気分でそのときを待っていた。もうすぐ未来の夫となる人物がやってくる。
 本音を言えば、今すぐこの場から逃げ出したい。
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