王族の婚姻に振り回された聖女ですが、幸せを見つけました
 伯母の話によると、結婚とは人生の墓場だそうだ。その真意はまだ知りたくないが、童話のように「いつまでも幸せに暮らしました」という話は空想の産物だってことはわかる。
 女神の愛は平等ではない。
 裕福な人がいれば、衣食住に不自由している人もたくさんいる。現にクレアは大好きな母親を失った。そして、その悲しみに暮れる暇もなかった。突然、母親が稼いでいた分の収入がなくなったのだ。クレアが働きに出なければ、弟妹たちの食事も用意できない。
 いつだって現実は理不尽で、つらくて、でもそれを表に出せずに幸せに振る舞う矛盾を抱えている。血のつながった家族でさえ、わだかまりがある場合も珍しくない。

(本当にできるのかしら。こんなわたしが……新しい家庭を築くなんて)

 昨日まで赤の他人だった人とこれから家族になると言われても、まったく実感が湧かない。
 貴族らしい生活に馴染みが少なかったせいで、クレアの価値観は下町生活で染められている。聖女として貴族と会話するたび、自分がいかに貴族社会の常識からズレているかを再認識した。
 そんな自分が王族に嫁いで本当に大丈夫だろうか。
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