王族の婚姻に振り回された聖女ですが、幸せを見つけました
 不安しかない。もしも王族を怒らせたら家族もろとも処罰される恐れもある。
 どのくらいの距離感が正しいのか、ほぼ庶民だったクレアにはわからない。
 王太子妃の務めは世継ぎを産むことだ。本来であれば、王太子妃に選ばれるのは教養と美しさを兼ね備えた上級貴族令嬢だったはずだ。断じて、下級貴族――それも庶民と同じ生活を送っていた自分ではない。
 考えれば考えるほど、この政略結婚に幸せな結末などないとしか思えず、気分が塞ぐ。
 クレアだって、小さい頃は自分にも幸せな未来があるのだと信じていた。けれど、まだ見ぬ恋人に夢を見ていた時期はとうの昔の記憶だ。
 母親の急逝以降、恋をする暇も余計なことを考える暇もなかった。
 だからこそ今、クレアはここにいる。

(わたしは自分で選んで聖女になった。聖女は微笑んで頷く、求められるのはそれだけ。だったら与えられた役目をしっかり果たさないと)

 対価はこの身をもって払わなければならない。
 そう決意を新たにしたときだった。王太子の到着を知らせる衛兵の声に、うつむいていた顔を上げる。扉を守る衛兵二人が恭しく白亜の扉を開ける。
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