王族の婚姻に振り回された聖女ですが、幸せを見つけました
 心臓の音がどくどくと脈打つ。まるで心を暴かれているようで居心地が悪い。思わず視線をそらすと、周囲がクレアたちを注視していることに遅れて気づいた。
 とっさに頭を切り替え、ドレスの裾をつかんで腰を低くする。

「し、失礼いたしました。ジュリアン王太子殿下。クレア・ラフォンヌでございます。ふつつか者ではありますが、誠心誠意お仕えしますので、よろしくお願いいたします」

 淑女の礼で応えると、ジュリアンが口元を引き締めた。

「あなたにとって、望んでもいなかった王太子妃という立場は重荷でしかないのかもしれません。しかしながら、私はあなたと手を取り合って、この国をもっと豊かなものにしていきたい。対等な立場として支え合い、あなたを一人の女性として愛したい。……そう思っています」
「…………」

 誠実な口説き文句に一瞬、クレアは聖女という自分の立場を忘れそうになった。
 さっきから、ジュリアンに別の人物の姿が重なって見える。けれど、同一人物のはずがない。青灰色の瞳を持ったリアンはよく似た別人だ。そうだと信じたい。

「クレア嬢、どうか私を受け入れてください」

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