王族の婚姻に振り回された聖女ですが、幸せを見つけました
 国王陛下の名の下に宣誓された、クレアの次の婚約者は第二王子になった。隣国に留学中の今年十四歳になるという、クレアより二歳年下の王子。
 まだ顔合わせはしていないが、このたびの騒動を受けて急遽帰国することになったらしい。
 第一王子との婚約は回避できたが、今度こそ逃げられない。もう誰もこの婚姻を止める者などいない。
 奇跡は、二度も起こらない。

(どうしてかしら。今になって、とっくに決めたはずの覚悟が揺るぎそうで、こわい……)

 第二王子との顔合わせのことを考えると、心が沈んでいく。相手は王族。それなりの振る舞いが求められる。そして、今度は初めから婚約者として接しなければならない。
 考えるだけで憂鬱になり、自然と視線は大理石の床に移る。丁寧に磨き上げられた神殿の床は塵一つなく清められ、どこも手入れが行き届いている。神殿には下働きの者がたくさんいる。そして、彼らの上に立つのが聖女だ。

 たった一人の聖女に、皆がかしずく。

 けれども、クレアはもともと貧乏男爵令嬢だ。しかも、中身はほとんど庶民である。国民から敬われるような価値が本当に自分にあるのだろうか。
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