王族の婚姻に振り回された聖女ですが、幸せを見つけました
 それもこれも、いっそ別人というくらい彼の雰囲気が違うせいだ。
 優美な動きでクレアの手を自分の腕に乗せ、王太子として隣を歩くジュリアンは堂々としており、下町で見せた茶目っ気や年相応の少年らしい感情の起伏は一切感じられない。
 あるのは王族としての気品、他者を慈しむ気遣い、己を律する強い心。
 それに引き換え、今のクレアは自分の心すら制御できない。だけど、護衛騎士たちのいる手前、その本音を口に出すこともできない。
 結局、感情をすべて胸の中に留めたクレアは、しずしずと歩くだけで精一杯だった。
 ジュリアンは迷いのない足取りで大広間を抜け、深紅の毛足の長い絨毯がヒールの音をかき消す。複数の護衛騎士が後ろに続く。

(それにしても……さすがは王族ね。女性のエスコートも完璧だわ)

 クレアの歩調に合わせて速度を落とした歩みは、歩幅の違う女性への気遣いに満ちている。何度もこちらを心配するように視線を向けられるたび、鼓動が速まるのがわかった。
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