王族の婚姻に振り回された聖女ですが、幸せを見つけました
 治癒術は使えても、クレア自身が特に変わったわけではない。でも周囲は違う。クレアの行動に意味を見いだし、さすが聖女だと褒め称える。貴族たちは手のひらを返したように媚びへつらい、その態度の一変にいっそ感心したものだ。
 聖女は孤独だ。同じ立場で、気持ちを分かち合える友達は誰一人いない。
 あなたは聖女だからと、誰もが一歩後ろに下がり、壁を作る。その壁は薄いようで、どれもおそろしく頑丈だ。当然ながら、壁を壊してこちらに踏み込んでくる者などいない。

(わたしは一人で生きていかないといけない。今も、これからも……)

 決意を新たにしていると、神殿の扉の向こうで、クレアを呼ぶ神官の声が聞こえてきた。

「聖女様。お勤めのお時間でございます」
「――ただいま、参ります」

 うつむいていた顔を上げる。鏡には、聖女らしい控えめな笑みをはりつけた聖女が映っていた。

(わたしは聖女クレア。それ以上でもそれ以下でもない)

 結婚相手が誰であれ、自分に課せられた役目は変わらない。王族に嫁ぐことは決定事項で、今回は相手が変わっただけだ。少なくとも、そのときのクレアはそう思っていた。

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