王族の婚姻に振り回された聖女ですが、幸せを見つけました
「だって、全然知らない王族と結婚するよりも、リアンのほうが安心するもの。王太子として振る舞っているときは違和感ありまくりだけど、下町に来ていた姿が素顔なんでしょう? あなたが相手なら結婚も悪くない気がするし」
「ちょっと待った。……確認するけど、もし王太子ではないリアンだったら結婚を受けてくれた、っていうこと?」

 真顔で聞き返されて、自分の発言の迂闊さを恥じた。
 羞恥で火照っていく顔を見られないように、くるりと踵を返す。

「…………あ、あくまで知り合いのほうが気兼ねなく一緒にいられる、という意味よ! 誤解しないでよね!?」
「……ああうん、了解」

 苦笑の気配を感じたものの、いたたまれないクレアは早足で出入り口を目指す。
 後ろを歩くジュリアンの表情を見る勇気はなかった。

 ◆◆◆

 孤児院の慰問で、帰り支度をしていたときのことだ。
 木製の扉を少し開くと、複数の男の声が聞こえてきた。慌ててドアの取っ手を内側に引こうとするが、聖女という単語に身を強ばらせる。

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