王族の婚姻に振り回された聖女ですが、幸せを見つけました
「だがなぁ。世の中に身も心も清らかな、まっさらな人間なんているのかね。聖女様だって素顔はオレらと同じかもしれないじゃないか」

 おそるおそる会話の主を見ると、若い男二人と中年の男が話し込んでいた。全員身なりがいいため、バザーの終わりに顔出しに来た貴族といったところか。だが世間話にしては少々声が大きすぎる。

「そうは言っても、彼女だって一人の女の子だ。嫌だなと思う相手だっているだろうよ。笑顔の裏で何を考えているかなんて、誰もわからない」
「一体、何を言っている? 聖女様は王国に光を照らす御方なのだぞ。我らを導く方がそんな考え方をなさるわけがないだろう。聖女様ほど人格的に優れた人はいない」

 間髪を容れずの返答に、クレアは心の中でため息をついた。
 実はこういった台詞を聞くのは一度や二度ではない。
 誰も彼も、無意識に自分の中の「理想の聖女」を押しつける。そして皆、それが間違っているとは露ほども思っていない。クレアだって同じ人間だというのに。
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