王族の婚姻に振り回された聖女ですが、幸せを見つけました
「彼女は聖女である前に、君たちと同じ一人の人間だよ。神聖化するのもいいけれど、彼女の人権を踏みにじってはいけない」

 ジュリアンの声だ。
 王太子らしい言葉遣いに、彼は王族なのだと今さらながら実感する。
 物陰からそっと様子を窺う。視線の先には、やはり護衛騎士を連れた王太子がいた。威厳ある雰囲気に圧倒されたのはクレアだけではなかったようで、先ほどまで威勢のよかった青年は萎縮して縮こまっている。

「ジュリアン王太子殿下、あの……」

 とっさに弁解しようとした若い貴族が口を開けようとするが、ジュリアンは片手を軽く挙げて続く言葉を封じる。王太子の機嫌を損ねたことに気づいたのか、青年はすっかり青ざめている。

「彼女を聖女として尊重するのはいいよ。それに見合う立派な功績も残しているし。でも彼女は生まれたときから聖女だった? 違うよね。それまで普通の女の子として暮らしていた彼女が、完璧な聖女になるのは簡単なことかな。相当努力しなければできないと思うのだけど」
「そ……そうですね。わ、私の考えが軽率……でした」
< 56 / 96 >

この作品をシェア

pagetop