王族の婚姻に振り回された聖女ですが、幸せを見つけました
「何でも聖女だからという先入観はよくないと思う。彼女を苦しめることになりかねないから。彼女は私たちと同じ人間で、感情だってある。ただ崇めるだけでは聖女は喜ばない。どうかそのことを覚えておいて」
「は、はい。殿下のお言葉、確と胸に刻みます……!」

 王族として恥じない高貴な振る舞いを目の当たりにして、格の違いを否応なく感じる。
 思えば、リアンとして下町で接していたときも、洗練された所作が目についた。本人は隠しているつもりだったようだが、明らかに貴族の教育を受けているとわかる育ちの良さが垣間見えた。
 本当は高貴な血筋の子息なのだろうと頭の片隅で気づきながらも、あの何気ない会話が楽しくて、身分差に気づかないふりをしてきた。彼がこうして自由に歩き回れるのも、子供である数年間かもしれない、と姉のような気持ちで見守っていたはずだった。
 けれど今はこうして自分を守ってくれる存在になっている。
 クレアが傷つかないように。

(彼はもう子供じゃない。この国の王太子で、わたしは聖女……。あのときとは何もかもが違う)

 王太子として接するジュリアンは紳士だ。
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