王族の婚姻に振り回された聖女ですが、幸せを見つけました
 対して自分はどうだったか。彼にふさわしい女性であろうと努力しているだろうか。
 思案に暮れていると、足音がこちらに近づいてくるのに遅れて気づく。ぱっと顔を上げた。

「クレア嬢、ちょうどよかった」
「お、王太子殿下。本日はお日柄もよく……」

 貴族の挨拶を返すために膝を落とそうとしたところで、ジュリアンが「ああ、いえ」と断りを入れる。

「公式な訪問ではないので、どうぞ楽にしてください。お仕事中に押しかけてすみません。実は豊穣の儀式の後、私たちの婚約披露パーティーを行うことになりました。今日はそのお知らせに来ました」
「……そ、そうですか」
「あと、あなたの顔を一目でも見たくて。すれ違いにならなくてよかったです」

 ふわりと花がほころぶような笑みを見てしまい、なんだか見てはいけないものを見てしまったような気まずさが襲う。
 胸に手を当て、詰まりそうになった呼吸を落ち着ける。

「? どうかされましたか」
「い、いえ。……なんでもありません」

 彼にとって、これはただの挨拶代わりみたいなものだ。深い意味はない。
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