王族の婚姻に振り回された聖女ですが、幸せを見つけました
 そう頭でわかってはいるものの、一度高鳴った鼓動はすぐには元通りにならない。
 今までクレアを口説こうとする異性は現れなかったが、婚約者として過ごす以上、こういったやり取りは今後増えていくだろう。
 ジュリアンは常連客ではなく、婚約者になったのだ。
 毎回取り乱しては聖女の名折れだ。どうやって耐性をつければいいのかはわからないが、早急に手を打たなければいけないことは確かだった。

 ◆◆◆

 年に一度行われる豊穣の儀式は滞りなく終わった。
 神殿関係者の席から王族代表のジュリアンが聖杯を女神像に捧げるのを眺め、粛々と儀式をこなしていく姿を目で追っていたら、閉会の案内が聞こえてきた。
 慌てて立ち上がり、聖女の仮面を被り直す。
 歓声が聞こえて笑みを浮かべて民衆に手を振っていると、ふと視線を感じた。
 王族の席をちらりと見やると、ジュリアンと目が合う。遠目に見ることしかできない距離なのに、なぜか少し笑われたような気がした。

(……もしかして、最初から気づかれていた?)

 下町で気さくに話していたリアンならば、クレアの行動は容易に想像がつくに違いない。
< 59 / 96 >

この作品をシェア

pagetop