王族の婚姻に振り回された聖女ですが、幸せを見つけました
 連日、神殿に聖女の治癒術を求めて押しかける人は数知れず。今までは王都近辺からの患者が多かったが、最近は海を渡ってきた外国人まで訪れるようになっている。これは世界で聖女の認知度が高くなったことを表している。
 そのおかげか、先週から始まった王太子妃教育も午前中のみになった。正午までマナーや教養をこれでもかと詰め込まれて、午後からは神殿でのお勤めに励む。諸事情により王太子の帰国も遅れているらしい。おかげで予定していた顔合わせはしばらく延期となった。
 日々のルーティンを淡々とこなす。心を無にして与えられた役割をやり抜く。

 しかし、聖女だって、中身はただの人間だ。

 毎日たくさんの治癒術を使っていれば疲れるし、いくら慣れたと言っても聖女の笑顔を一日中キープするのもなかなかの苦行だ。
 王宮に戻れば、見た目は美しいが毒味済みの冷めた食事、無駄に広いベッドが待っている。数人の侍女がクレアを待ち構え、体中をぴかぴかに磨き上げる。高い香油を使った全身マッサージはまどろみを誘うが、身体の疲れは取れても心の疲れまでは取れない。
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