王族の婚姻に振り回された聖女ですが、幸せを見つけました
 表面上はうまく取り繕えたはずだが、おそらく観察力に優れた彼の目は誤魔化せない。そう思うと、体がかっと熱くなった。
 だが今は民衆の前だ。聖女が感情を表に出してはならない。
 できるだけ自然な笑みになるよう意識し、その場をなんとか切り抜けた。

 ◆◆◆

「クレア嬢。お手をどうぞ」
「は……はい」
「では、参りましょうか」

 ジュリアンに頷き返し、正面ホールの扉が開くのを待つ。

(今夜は螺旋階段から下りるのではなく、正面から乗り込む。考えるのを放棄し、王族の言いなりになるだけだったときとは違う。だから用意された場所ではなく、自分にふさわしい場所を選ぶ。……リアンがこの方法に賛同してくれてよかった)

 王族入場の読み上げの後、ジュリアンにエスコートされて会場に入る。ざっと周囲を見渡すと、以前とは違う登場の仕方に、招待客からは動揺が見え隠れしていた。
 これは過去の自分との決別の証しでもある。
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