王族の婚姻に振り回された聖女ですが、幸せを見つけました
 王太子となった彼の隣に立つ者として、ふさわしい存在にならなければならない。お荷物になるだけなんて冗談じゃない。ずっと守られてばかりの鳥籠の姫になるつもりもない。だって、クレアはもう操り人形の聖女ではないのだから。

「皆様。この場をお借りして、私の婚約者をご紹介いたします。当代の聖女、クレア・ラフォンヌ嬢です」
「ご紹介に与りました、クレアでございます。どうぞよろしくお願いいたします」

 驚きの声はない。
 それはそうだ。建国祭の夜会で、聖女の婚約者を当時の第二王子に指名したのは国王だ。貴族社会において今さら知らない者などいない。
 ちなみに、今夜はジュリアンの兄とその婚約者は揃って欠席している。
 彼らは弟が王太子としての足場を固めるため、余計な火種をまかないため、しばらく社交界からは距離を置くと聞いている。思いやりにあふれた、彼ららしい配慮だと思う。

「……それでは、また」
「ええ」

 貴族の堅苦しい挨拶の列がようやく終わった。
 ジュリアンの横でずっと微笑んでいたクレアは、ほっと一息ついた。じろじろと見られるのは慣れていたが、未来の王太子妃として見られるのは全然違う。
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