王族の婚姻に振り回された聖女ですが、幸せを見つけました
「心配は無用だよ。君が体調不良で神殿にこもっていたのは周知の事実。いずれは君と踊りたいとは思っているけど、クレアを貴族の慣習に縛り付ける気はないから。今回はうまくやっておくから安心して。これでも王族の一員だから」
「一員って……れっきとした王太子殿下でしょう?」
「まぁね」

 軽口を叩いていたジュリアンだったが、何かに気づいたようにさっと真顔になる。クレアも口を噤んで身構えた。
 すると、彼の影に同化していたように、暗がりから急に人影が現れる。まるで最初からそこにいたかのような動きに目を瞬かせていると、ジュリアンの護衛だと遅れて気づく。

「殿下」
「……どうした?」

 護衛が一言耳打ちし、ジュリアンの顔色が変わった。
 だがその変化も一瞬の出来事で、すぐに彼は穏やかな顔に戻る。

「クレア嬢、申し訳ありません。ちょっと席を外します」
「……承知しました。わたしのことはどうぞお気になさらず」
「できるだけ早く戻りますね」

 そう言い置いて、彼の気配がすぐに遠ざかる。
 相手は国の重鎮だろうか。どのみち、気が長いほうではないのだろうなと予想がつく。
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