王族の婚姻に振り回された聖女ですが、幸せを見つけました
「まあ、得てして初恋は実らないものだといわれていますし、こればかりは仕方ないでしょう。なんといっても聖女を正妃に迎えるのは国の威信に関わる慶事ですもの」
「そういえば、男性は初恋の人が忘れられない生き物だと、兄が自慢げに申しておりました」
「初恋は成就しないからこそ、素敵な思い出になるのでは?」
「そうですわね。思い出の恋はたまに思い返すぐらいがちょうどよいと思いますわ。それこそ、誰にも話さずに、そっと胸に秘めておくものではありませんこと?」

 下町で見せたリアンとは真逆の、王太子らしい対応にずっと抱いていた違和感。その正体がやっとわかった気がする。
 彼女たちの話で色々と腑に落ちた。

(そっか……リアンは隣国ですでに好きな人を見つけていたのね。だけど、留学中に王太子に選ばれたせいで、想い人に告げる前に帰国することになってしまったのだわ……)

 だとしたら、クレアは二度も愛する恋人を引き裂いたということになる。
 どちらも自分の意思に関係なく起こってしまった事態だとしても、クレアにはその責任がつきまとう。聖女がいなければ、彼らの恋はそのまま成就されていたのだから。

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