王族の婚姻に振り回された聖女ですが、幸せを見つけました
(ああ……わたしは本当に人の恋路の邪魔をしてばっかりね)

 もし恋をするなら、自分を一途に見てくれる人がいいと思っていた。
 だけど、ジュリアンの心の中には誰かが住んでいる。時折遠くを見つめ、自分ではない誰かを想っているのだろう。そう思うと余計に胸が苦しくなる。

(こんな思いをするくらいなら、気づきたくなかった……)

 そこから先の会話は耳に入ってこなかった。

 ◆◆◆

 正式に王太子の婚約者と周知された翌日。
 クレアの居住場所は神殿から宮殿に移されることになった。お世話になった神殿関係者との別れを済ませ、準備された部屋へと向かう。
 どんな華美な調度品とご対面するのかと身構えていたが、最低限の調度品が用意されただけの空間に拍子抜けした。従者によれば、あとでクレア好みに変更できるように手配されたらしい。神殿から持ってきた荷解きが済むと、入れ違いでお茶を持ってきた侍女が尋ねてくる。

「聖女様。王太子殿下からお茶会のお誘いが来ておりますが、いかがされますか」
「……伺いますとお伝えください」
「かしこまりました」

 猫足のソファにそっと腰かける。
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