王族の婚姻に振り回された聖女ですが、幸せを見つけました
 食べた瞬間から幸せに包まれる味だった。ラズベリーとブルーベリーがどっさり載ったタルトは、外の生地はサクサクして香ばしく、酸味の強いベリーの下には甘いカシスクリームがぎゅっと敷き詰められていた。
 タルトに合わせた茶葉は渋すぎず、ちょうどいい苦みだ。
 美味しさの余韻に浸っていると、それを待っていたようにジュリアンが口を開いた。

「体調はどう? なにか無理していたりしない?」
「……平気よ。ちゃんと休んでいるもの」
「本当に?」

 青灰色の瞳はひたむきにクレアを見つめる。
 誠実な眼差しに射止められ、鼓動の音が否応なく速まる。
 聖女の奇跡を期待する信者の瞳とは違う。やや熱を帯びた視線はまるで恋人に向けるようで、喜びよりも先に戸惑いが生まれた。

「クレア……? なんだか顔が赤いけど、熱でもあるんじゃ……?」
「だ、大丈夫! 本当になんでもないから!」

 必要以上に意識していることを知られたくなくて、つい反射的に強く言い返してしまう。やってしまった後で自分の失態に気づいた。

「ごめんなさい……。言い過ぎたわ」
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