王族の婚姻に振り回された聖女ですが、幸せを見つけました
「いいよ。気にしないで。むしろ、思ったことはそのまま吐き出してほしいくらいだから。離れていたぶん、君のことをもっと知りたい」
「……っ……」
「ねえ。やっぱり正体を隠していたこと、怒ってる?」
「……どうしてそう思うの?」
「神殿で再会したときも最後まで言い出せなかったから……」

 ジュリアンはティーカップの縁を人差し指でそっとなぞり、つぶやくように言う。
 しゅんと怒られるのを待つ犬のように見えて、クレアはかぶりを振る。

「別に怒ってなんかいないわ。わたしが逆の立場でも、きっと同じことをしていたもの。だいたい不用意に正体を明かすなんて、自分の身を危険にさらすようなものでしょう。あなたの選択が間違っているとは思わない」
「それは…………」
「リアン。わたしは割と親しい関係だったと思っていたのだけど、あなたは違う?」
「……違わないよ」

 ジュリアンはクレアを対等の存在として扱ってくれる。
 だったら、変な遠慮はしないほうがいいだろう。彼は王太子である前に、一人の人間なのだから。

「じゃあ、単刀直入に聞くわね。リアンは、ずっと前から好きな人がいるんじゃない?」
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