王族の婚姻に振り回された聖女ですが、幸せを見つけました
「も、もう。それも冗談でしょう? だって、そんな都合のいい話があるわけないし……」

 笑ってごまかそうとしたら、手首をつかまれた。
 驚いて顔を上げると、丸テーブルの向こうに座っていたはずのジュリアンが真横に移動していた。
 強く握りしめられているわけではないので痛みはない。だが手を引こうとしても、びくともしない。目を丸くしていると、鋭い眼差しがクレアをその場に縫い止めた。

「冗談……だって? 俺が? 一体、何のために?」
「…………」
「クレア、俺の目を見て。今まで俺がどんな気持ちで耐えてきたと思ってるの。好きな子に好きと言えない立場のせいで、身を引くしかなかったんだ。でも何の因果か、君の結婚相手は俺になった。こんな奇跡、そうそうないよ。一度は諦めていた願いが叶うんだから」
「……願い……?」
「もちろん、クレアと結婚することだよ。後悔はさせない。俺が好きなのは聖女らしく振る舞うために作った笑顔じゃなくて、ありのままの笑顔なんだ。だから俺のそばで無理をする必要はないんだ。……だから、俺の気持ちを受け入れて」

 すがるような切実さが伝わってきて、目を右往左往させる。
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