王族の婚姻に振り回された聖女ですが、幸せを見つけました
 うまく言葉にできないが、これは返答を間違ったらマズいやつではないだろうか。

(ど、どうしよう……どうしてこんなことに……)

 冷や汗をかくクレアの胸中を読んだかのようなタイミングで、次の言葉が被さる。

「それとも何、他に気になる男でもいるの?」
「い、いません」

 つい敬語で返事をしたら、ジュリアンが笑みを深めた。

「ならよかった。じゃあ、俺の気持ちにも応えてくれるよね?」
「……っっ……」

 有無を言わさない圧力をひしひしと感じ、声が詰まる。
 こんな風に美形に迫られて動揺しない淑女の皆さまは、さぞ強心臓の持ち主なのだろう。アルバイト先で聞きかじった、思わせぶりな態度で相手を翻弄するような手法は、恋愛経験値が底辺のクレアにはとても真似できない。
 つまり、今の状況で言葉を取り繕うなんてことは到底無理なわけで。
 ここは直球勝負しかない。よし、とクレアは心の中で自分を鼓舞する。

「あ、あああああの! 恋とか愛とか、そういうことを語るには経験不足だから……もう少し時間がほしいな、と……」

 しどろもどろになりながらも懇願すると、ジュリアンはふむ、と顎に手を当てる。

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