王族の婚姻に振り回された聖女ですが、幸せを見つけました
「クレアが俺の妃になるのは確定しているんだし、そんなに急ぐ必要もないか。政務も落ち着いてきて、これからは毎日会えるんだし、婚約者なんだから触れあうことだって自由なわけだし……」
「…………」
「うん、そうだね。俺がどれだけ君を好きなのか、あまり伝わっていないみたいだから、ちゃんとわかってもらわないと。――ゆっくり愛を育んでいこう?」

 きらきらと目を輝かせた美貌が鼻先まで近づき、危うく息の根が止まりそうになる。
 ひぇっ、と声にならない叫びが喉元にせり上がった。
 息が浅くなり、呼吸がうまくできない。過剰なフェロモンを大量に浴びたせいでさっきから動悸が激しい。このまま死ぬのでは、という不安が脳裏をよぎる。

(こ、こんなに……恋って苦しいものなの……?)

 ぎゅうぎゅうに締めつけられているように、息苦しい。うまく息が吸えない。
 この近すぎる距離に耐えられない。いっそ、このまま気を失えたらどれだけ楽だろうか。
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