王族の婚姻に振り回された聖女ですが、幸せを見つけました
 昔から働きづめで恋愛をする余裕がなかったのも経験不足の一因だとは思うが、とにかく異性との距離の詰め方がわからない。自分に言い寄ってくる男なんて今までいなかった。つまり、異性の免疫はほぼゼロだ。
 実はクレアが恋愛音痴になった原因は、彼女のアルバイト先の店主夫妻と常連客のジュリアンが裏で不届き者に釘を刺していたからなのだが、そんな事情は当然本人には知らされていない。

(うう……こういうときの対処法がわからない……!)

 ぐるぐると目が回りそうになる。
 焦りだけが募り、冷や汗が尋常じゃないくらい出ているのがわかる。
 こういうとき、普通の令嬢ならどの行動が正解なのだろうか。迫ってくる男を逆手にとって惑わす? それとも女の涙で男を動揺させる? 答えはどっちだ。
 プレッシャー過多により視野が狭められたクレアは究極の二択に悶え苦しみ、やがて決意したように薄く口を開けた。だが、青灰色の瞳の中に映る赤面した自分の姿を見つけてしまって、あとはもうだめだった。
 クレアは脱兎のごとく、ジュリアンの前から逃げ出した。

 ◆◆◆

 勢いよく扉を開けて、そのまま無我夢中で渡り廊下を走り抜けた。
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