王族の婚姻に振り回された聖女ですが、幸せを見つけました
 クレアが通り過ぎた回廊では、青々とした葉が風に乗って遠くへ飛んでいく。でもそんなことに気を取られている余裕はない。
 いつもなら聖女らしく、おしとやかに振る舞うことなんてお手の物だ。しかしながら、今日ばかりは見逃していただきたい。そんな余裕がかけらでも残っていれば、こんな風に敵前逃亡するような結果になっていないのだから。
 気づけば、クレアは離宮の外れに来ていた。人影はない。あるのは小鳥の声と暖かな木洩れ日だけだ。人生初めての全力疾走に体が悲鳴を上げている。
 大木にまで育った欅の幹に片手をついて、ぜぇぜぇと肩で息をする。

(な、なんなの……あの色気は!? あれで十四歳って嘘でしょ!?)

 ディクス王国において、男性の成人年齢は十八歳と決められている。すなわち、王太子が成人するまでは結婚することはできない。
 つまり、婚礼の儀が行われるまで、まだ四年の猶予があるわけで。
 冷静に考えろ。まだ時間はたっぷりあるはずだ。その間に恋人の距離感にも徐々に慣れればいい。今は経験がないだけで、回数をこなせば、きっとあの色気にも耐えられるようになる。そうだと信じたい。
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