王族の婚姻に振り回された聖女ですが、幸せを見つけました
 だが果たして、本当に自分は慣れるのだろうか、先ほどのような甘い時間にも。
 聖女になって手に入れた鋼の精神力でさえ、ジュリアンの前では歯が立たなかったのに。

「…………」

 先ほどの自分の挙動不審な行動を思い出し、理想にはほど遠いなと思う。我ながら前途多難なのではないだろうか。同じ状況で、うまく振る舞える未来がまるで思い浮かばない。
 もし相手がジュリアンでなければ、正直ここまで翻弄されていなかったはずだ。今回は相手が悪かったのだ。よく知る人物だったから、親しみを感じる相手だったから。そんな彼が自分の婚約者になって動揺するなというほうが無理な注文だ。
 そう自分に言い聞かせる一方、脳裏に蘇るのは大きな手の感触。
 まるでずっと湖に浸かっていたかのような冷たい手だった。クレアよりずっと大きな手のひらが頬を包み込み、その長いきれいな指がたどった先は――。
 うっかり唇が重なり合う光景を想像してしまって、火を噴いたみたいに顔中が熱くなった。

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