王族の婚姻に振り回された聖女ですが、幸せを見つけました
(落ち着け、落ち着くのよ。そ、そういうのはもっと先のはず。まだ大丈夫。わたしのほうが年上なんだし、こんなことで動揺してどうするの……心を無にするのよ……!)

 どのくらい、そこに立ち止まっていたのか。数分だったのか、数十分だったのか。時計の針を確認していないクレアにはわからない。
 ただ、気づいたときには後ろに人影があって。
 振り返るより早く、耳元に吐息がかかった。びくりと肩が跳ねるが、それをなだめるように右の肩にぽんと男の人の手が置かれる。

「やっと見つけた。クレアは逃げるのが上手なんだね。勉強になったよ」
「…………」
「でもごめんね、君を逃がしてはあげられないんだ。だって、クレアは俺の心のよりどころだったから。君に会うために何度も城を抜け出した。初めて見たときから――俺はクレアのとりこだよ」

 突然の甘い低音が耳に吹き込まれ、猫みたいに全身の毛が逆立った。確認するまでもなく、心拍数が急上昇しているのがわかる。
 声にならない叫びを発していると、声の主――ジュリアンがふっと距離を取る。
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