王族の婚姻に振り回された聖女ですが、幸せを見つけました
 とはいえ、自分は聖女だ。はいそうですか、と素直に引き下がるわけにはいかない。

 聖女の奇跡を求めて、神殿に押しかけてきた人たちはどうなるのか。今も治療が必要な人がいるのに、自分だけ、のうのうと過ごせるわけがない。
 けれども、クレアの反論は想定済みだったのか、あっけなく却下された。
 聞けば、王都に詰めかけているのは軽傷者ばかりで、聖女自ら治療する必要はないとのこと。神官でも調合薬で軽い症状なら充分に手当てができる、というのが神殿側の主張だった。
 おそらく、倒れてしまったのがいけなかったのだろう。自己管理ができていなかったクレアの落ち度だ。突発的な神殿での休息も、今回ばかりは甘んじて受けるしかない。
 そのぐらい、たくさんの人に心配をかけてしまったのだから。

 ◆◆◆

 神殿預かりになって早一週間。読書や刺繍をしながら静かな療養生活を過ごしていると、神殿長がクレアの部屋を訪れた。
 軽く雑談を交わした後、胸まで伸びたふさふさの白髭を撫でつけながら、神殿長は温和な顔で言った。

「聖女様。本日は、あなたに会わせたい方がいます」
「どなたでしょう?」
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