王族の婚姻に振り回された聖女ですが、幸せを見つけました
「か、確認しておきたいことがある、のだけど……」
「なんでも言って。不安のままで悩まれるより、その都度、相談してもらったほうが俺としても助かる。どんなに親しい間柄だって、ちゃんと言葉にしないと伝わらないからね」

 思ったよりフランクな切り返しに、クレアは瞬いた。
 まるで友人に接するような気安さだ。もちろん、これは彼なりの気遣いの結果だということは理解している。だから、この言葉は胸にしまわなくてはならない。

 ――そのはず、なのに。

 どうして目の前の男は悲しそうな顔をしているのだろう。本音を押し殺したクレアの気持ちを察したように眉根を寄せている。
 そんな顔をさせたかったわけではない。
 でも、思ったままの気持ちをそのままに伝えて、もし王太子の不興を買ってしまったら。
 いくら聖女だろうと、すべてが許されるわけではない。この国で安泰に暮らせているのは王国の庇護下にいるからだ。
 飼い犬に手を噛まれるような真似、果たしてジュリアンは許容してくれるだろうか。
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