王族の婚姻に振り回された聖女ですが、幸せを見つけました
 逡巡するクレアを思考の海から救い上げるように、気づけば右手を取られていた。そして、王太子として初めて会ったときのように跪かれる。

「俺に何か聞きたいことがあるなら、教えてほしい。答えられる質問にはすべて答えるよ。……だから、せめて俺の前では気持ちを押し殺さないでほしい」
「…………」
「ちゃんと受け止めるから。どうか信じて」

 ジュリアンはクレアの右手を両手で包み込み、瞬きも忘れたように見つめる。
 真実を映す鏡で心をのぞき込まれたわけでもないのに、思わず視線をそらす。たぶん、それがいけなかったのだろう。
 クレアは気づいてしまった。自分を包む手がほのかに温かいことを。
 つい先ほどは驚くほど冷たかった手が、今はわずかだが熱を帯びている。ジュリアンのドキドキが伝わってくるようで、クレアの鼓動も再び騒ぎ出す。
 一度意識してしまえば、気づかないふりをするのもなかなか難しい。
 だが、唐突に彼の体温上昇の理由に思い当たり、瞬く。

(もしかして、リアンも怖いのかもしれない。ありのままの自分を受け入れてもらえないかもしれないって、本当は不安でいっぱいなのかも……)

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