王族の婚姻に振り回された聖女ですが、幸せを見つけました
 彼はずっと身分を隠してクレアに接してきた。
 王族であれば、自分の価値は重々承知しているはずだ。お忍び中なら、その身分を使う場面がない限り、自ら名乗り出るようなことはしないだろう。第二王子だと知られれば身の危険が増え、周囲の人間も巻き込まれる可能性が高いからだ。
 しかしながら、理由があったにせよ、彼がクレアをずっと騙していたことは変わらない。
 最初からリアンが第二王子だと知っていれば、馴れ馴れしく話すような愚鈍な真似はしていなかっただろうから。

 もし、彼が良心の呵責に悩んでいたとしたら――。

 そこまで考えて、先ほど飲み込んだはずの言葉が喉元までこみ上げた。クレアは目を伏せて深呼吸する。そして、ゆっくりと瞼を開けた。
 クレアの気持ちが定まるまで待っていてくれた彼の期待に応えるべく、口を開く。
 嘘偽りのない本音を伝えるために。

「リアンは……他の人のように、わたしを閉じ込めるの?」
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