王族の婚姻に振り回された聖女ですが、幸せを見つけました
 一度、覚悟を決めた心は、羽が生えたように軽い。さっきまでぐるぐると考えていた悩みも気にならなくなる。
 ライラックと同じ色のやわらかい髪が風でなびく。切れ長の青灰色の瞳はクレアしか目に入らないように、ひたむきにクレアを見つめている。

(リアン。わたし、あなたのことが……)

 口を開きかけたそのとき、第六感が告げた。

 ――今、彼の望む返事をしたら喰われるかもしれない。

 逃げろと本能が言っている。クレアは自分の直感のまま回れ右し、再び全力疾走でその場から離れた。

 ◆◆◆

 その後、恥ずかしさから逃げる聖女とそれを追いかける王太子の恋物語は、幸せな結婚の象徴として長く語り継がれていった。
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