王族の婚姻に振り回された聖女ですが、幸せを見つけました
番外編(ジュリアン視点)
 一方、あと一歩で初恋を成就させ、クレアと心を通わせるところだったジュリアンは呆けていた。まさか、一度ならず二度も逃げられるとは思っていなかったからだ。
 手を伸ばせば届く距離にいた婚約者は、すでにいない。
 驚きと落胆がある反面、どこか少し安心している自分もいた。

 万が一にも、あのまま彼女の口から好きなど言われてみろ。理性が崩壊するに決まっている。

 クレアがジュリアンの正妃になる日は、まだまだ遠い。大人の四年と成長期の四年は同じではない。晴れて婚約者にはなれたが、結婚するまで安心などできない。
 どの国も聖女を欲している。いつどこで、政治的圧力によって横やりを入れてくるか、わかったものではない。婚約者という立場にあぐらをかくことなく、婚約期間中もちゃんと自分が彼女の心をつなぎ止めていなくては。
 わざと冷たくあしらったり、恋人に嫉妬してもらいたいがために他の女に目を向けたり、そんな駆け引きは愚者のすることだ。女は自分が試されていると知ると、気持ちが離れていく。

 ジュリアンにとって、これは生涯の恋だ。

 だからこそ、彼女に嫌われるようなことはしたくない。
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