王族の婚姻に振り回された聖女ですが、幸せを見つけました
 今日みたいに距離を縮めすぎるとクレアは赤面して逃げてしまう。彼女が心を開いてくれるまで、適度な距離感を保たなければならない。今日は嬉しい気持ちが前に出すぎて、つい自重を忘れてしまった。
 紳士だ。紳士を心がけろ。そう自分に言い聞かせ、ジュリアンは前髪をかき上げた。

(好きな人に振り向いてもらうのって結構大変だな……)

 まずは心置きなく自分と恋をしてもらうために、彼女の身辺から整えていこう。
 公にされているジュリアンの帰国時期は最近だが、実際は留学先から一足先に母国に戻っていた。すべてはクレアの身の回りにいる人間を探るためだ。
 世の中は金だ。お金を積めば、経歴などいくらでも誤魔化せる。書類上じゃない、本当にクレアの周囲にふさわしい人間かどうか、自分の目で見て確かめたかった。
 髪色を変えて文官に変装したジュリアンは調査を開始して、彼女が心から信頼置けるだろう人物をリストアップした。以前、クレアに助けてもらったという下働きの女は身分は低いものの、歳も近くて性格も似ていた。王宮で気詰まりしている様子のクレアの話し相手にぴったりだと思った。
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