王族の婚姻に振り回された聖女ですが、幸せを見つけました
「そんなに緊張なさらないでください。あなたのよく知る方ですよ」

 首を傾げるクレアに片目をつぶり、神殿長が扉のほうへ近づく。扉が開く音がして、一人の少年が静かに入室した。
 着ているのは、白地に緑のラインが入った騎士の見習い服だ。
 けれども、成長期だからだろうか。記憶していた彼の頭の位置がだいぶ高い。前は彼を見下ろす格好だったのに、今は同じくらいの目線になっている。
 この国では珍しくない栗色の髪はふわふわと波打っており、青灰色の瞳はクレアの姿を認めると懐かしそうに目を細めた。その仕草は、あまりにも記憶の中と同じもので。

「……リアン……?」

 おそるおそる名を呼ぶと、リアンが子供のように破顔した。

「よかった、覚えてくれていたんだね。二年ぶりぐらいかな? 元気だった?」
「え、ええ。でもあなた、確か隣国に留学してくるって……五年ほど帰ってこられないって言っていなかった?」

 クレアが思わず問いかけると、途端に顔が曇る。だが、それも一瞬の出来事だった。
 瞬き一つで憂いの表情を消して、リアンがおどけて笑う。

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