王族の婚姻に振り回された聖女ですが、幸せを見つけました
「迷子だ。一人で歩いていたから連れてきた。温かい飲み物を用意してやってくれ」
「それで問答無用で連れてきちゃったの? 怖がってるわよ、かわいそうに。でもまぁ、確かに見目はいいね。今日はよそ者もたくさん来ているし、人さらいに連れて行かれても不思議じゃない。保護したのは正解だったかもね」
「……!」

 もしや自分は助けられたのか。警戒は驚きに変わっていく。
 向けられるのは値踏みするような視線ではなく、子供の身を案じる温かい視線だ。
 ジュリアンは言葉を失い、その場に座り込むことしかできなかった。極度の緊張状態に陥っていたため、頭の上で大人たちが会話していたが、耳に入ってこない。
 しばらくして、ことり、と机の上にマグカップが置かれる。
 ほわほわと湯気が出ていて、出来たてだとわかる。だが毒味後の食事しか摂ったことがないジュリアンにとって、温かい食事は未知の領域だ。護衛がいる手前、今日の屋台だって食べ物には手をつけていない。とはいえ、今は警戒心より好奇心のほうが勝っていた。
 両手でマグカップを包み込み、おそるおそる一口飲んでみる。

「……おいしい……」
「それはよかった」

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