王族の婚姻に振り回された聖女ですが、幸せを見つけました
 思わずもれたつぶやきに女将がにかっと豪快に笑う。
 なんとなく居心地が悪い思いを抱えながら、ちびちびとホットミルクを飲む。温かい飲み物は強ばっていた体だけでなく、心までもほぐしていった。
 
「クレア。私はこの子の保護者を探してくるから、それまで話し相手になってやってくれるかい?」
「うん。わかった。いってらっしゃい」

 女将の後ろにいた女の子は店主を見送ると、すぐに戻ってきた。
 動きやすいように、くすんだ金髪を後ろで一つ結びにしている。彼女が歩くたび、背中で髪の毛先がゆらゆらと揺れる。
 年齢は十四・十五歳くらいだろうか。緊張感はなく、家庭的な温かさを持った素朴な少女だ。のびのびとした様子は、王宮で働く侍女と似ても似つかない。
 彼女は膝をかがめてジュリアンに目線を合わす。

「あなた、お名前は?」
「…………リ、リアンだ」
「リアンね。わたしはクレアよ。よろしくね」
「…………」
「女将さんは人捜しが得意なの。大丈夫、すぐに合流できるわ」

 どう切り返していいかわからず口を真一文字に結ぶと、黄水晶の瞳が優しく細められた。
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