王族の婚姻に振り回された聖女ですが、幸せを見つけました
 その後、彼女の言葉通り、はぐれていた護衛たちと無事に再会を果たした。

「無事に見つかってよかったね!」
「あ……うん」
「じゃあ、またね」

 去り際に見せた、ぽかぽかのお日様の笑顔に心が震えた。
 それからも、たびたび王宮を抜け出して彼女に会いに行った。彼女を含め、下町の皆は普通の子供として接してくれた。王子として扱われない環境は気が楽だった。
 思ったことをそのまま言っても、誰も咎めない。王子らしくあることを求められない。
 しかしジュリアンは王子だ。庶民との結婚なんて許されるわけがない。
 そして王族である以上、一定の成果を国民に示す義務がある。広い視野を持つためにと、もっともらしい言い訳を並べて留学を申し出た。だが本当は他国に行くことで気持ちを整理し、初恋に終止符を打とうとしていたのだ。
 なぜなら、好きな気持ちが大きければ大きいほど、忘れるのにも時間がかかるから。
 ジュリアンには時間が必要だった。
 けれども物理的な距離が離れたぶん、美化された思い出を振り返る日が多くなったのは誤算だった。最大の番狂わせは、自分の兄が聖女クレアの夫に選ばれたことだ。

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