環境が最悪なので推し活してたら推しから溺愛されることになりました
 彼らは『イケリウム』というユニットを組んだ配信者だ。
 しかも美知華の務める会社で最も売れている配信者でもある。
『最近気温が安定しないから何着ればいいかわかんなくね?』
 赤い髪をしたイグニスは、ぶっきらぼうだけどリーダーとしてしっかりとした一面がギャップ萌えとして人気がある。
『イグニスはなんかもう何も着なくても大丈夫そうだけどね』
 色素の薄い髪に白いメッシュを入れたニクスは、基本的におっとりしているのにたまに入れる鋭いツッコミがいつも配信を面白くしてくれる。
 そして……
『じゃあ次の配信は、イグニスが全裸になって何時間後に職質受けるかゲームにしよっか』
 青黒い髪に、やや生意気そうな顔つき。黙っていれば綺麗な顔をしているのに、全然気取った様子も無く豪快に大口を開けて笑うその姿。
 彼は美知華の推し、アクアだった。
「あぁ~。アクアくん、また鬼みたいなこと言ってる~」
 スマホを眺めながら、美知華はケラケラと笑う。
 三人ののんびりとした空気感が観ていて楽しいし、何より推しのアクアが喋ったり笑ったりしているだけでとても癒されるのだ。
 以前、推し活をしている友人も言っていた。
 推しの存在は、励みであり癒しだと。
 今ならその意味がよくわかると美知華は強く感じるのだった。
「前に『イケリウム』の取材したらしいんだけど、その時はまだ推しじゃなかったから全然ふっつーに対応しちゃったんだよなぁ」
 会社で働く身としてはそれで正解だが、ちょっと惜しいことをしたなというのが正直な気持ちである。
 だが実は、来週まさにその『イケリウム』の取材と撮影が入っているのだった。
 しかも広報担当に抜擢されたため、すでに美知華は気合十分でいる。
「最悪なことばっかだけど、仕事とはいえ推しに会えるんだから幸せだよね。よしっ、原稿の方も頑張ろう」
 パンッと顔をそこそこの力で叩き、嫌な気持ちを吹き飛ばす。
「仕事しない後輩も浮気しやがった元カレも知ったこっちゃなーい! アクアくんが……『イケリウム』の知名度がより上がる撮影にしてやるんだから!」
 気合いを入れた美知華の喝は、風に乗って遠くのビル群へと飛んでいったのだった。
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